《世界中で20年来推進されている、徹底した隠ぺい政策のおかげで、結局のところ、チェルノブイリはさほど深刻な惨事ではなかったと信じられるようになってきている。
事故から十日後、モスクワで開かれた記者会見の席上、ソ連最高会議の副議長シチェルビナは、原子炉に隣接する地域の放射線量は毎時150マイクロシーベルトであると断言した。
しかし実際の値は、毎時1億5000万マイクロシーベルトだった。
その後取られた政策は、ロシアの西部、ベラルーシ、そしてウクライナ北部の住民にとって、実に残酷な結果をもたらすものとなった。》(チェルトコフ「チェルノブイリの犯罪」(上巻)57頁)
《 私の人生をほんとうに変えてしまったのは、子どもたちの被ばくという衝撃的事実でした。‥‥
(子どもたちがたいへんな目に遭っている現場を目撃し)このとき、私は思ったのです。原子力というテクノロジーは何十万人もの人間をこれほどまでに不幸な目に遭わせるものならば、それはこの世に存在する権利を持たない、と》(チェルトコフ「チェルノブイリの犯罪」(上巻)191~193頁ネステレンコの証言)
《私たちはかつてないほど矛盾をはらんだ時代に生きている。若い人には愚かな間違いを繰り返してほしくない。命ほど大切なものはない》《他人を破壊してまでエゴを満たしてはいけない》(来日中のウルグアイ元大統領ホセ・ムヒカの発言から)
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今回の「核と被ばくをなくす世界社会フォーラム2016」がもたらした、世界の物差しで福島原発事故を再定義する結果の1つは次のことだった。
《IAEA事務局長ハンス・ブリックスは「チェルノブイリのような事故が毎年起こっても人類は大丈夫だ」と宣言した》(チェルトコフ「チェルノブイリの犯罪」(上巻)194頁ネステレンコの証言)
《IAEAの事務局長ブリックスは「原子力産業はチェルノブイリ級の事故に毎年でも耐えられる」と断言した》(映画「真実はどこに?」でアレクセイ・V・ヤブロコフの証言)
これはジョークではない。国際原子力ロビーは、これを大真面目に検討し、そのためのシナリオを用意周到に練り上げた--チェルノブイリ級の事故に毎年起こっても大丈夫と思わせるほど「事故を小さく見せる」シナリオ、すなわち「無知の戦略」。これをチェルノブイリに適用した。これこそ本当の意味で、人災による過酷事故である。これは他人を破壊しても省みないウルトラエゴであり、「チェルノブイリの犯罪」と呼ばずにどう呼んだらいいだろうか。
そして、この事故を小さく見せる「無知の戦略」がチェルノブイリ以後の原発事故収拾のモデルとなった。
2011年、これが福島でも適用された。私たちは原発事故のあと、目にも止まらぬはやわざで、ICRPからお見舞い勧告をいただき、文科省はこれを錦の御旗にして、子どもたちの集団避難を阻止するため学校の安全基準の20倍引き上げ(年間20ミリシーベルト)を行ったことを思い出す必要がある。
以後、国際原子力ロビーのチェルノブイリ級の事故に毎年起こっても大丈夫と思わせる「事故を小さく見せる」シナリオに沿って、汚染地に住む人々の運命が弄ばれている。
いま、福島と東日本では、チェルノブイリの犯罪が福島での犯罪として反復されている。
しかし、これは福島原発事故に限ったことではない。
国際原子力ロビーは次のことを今後の想定内の出来事として、原発事故収束のシナリオにさらに磨きをかけている。
再稼動して、今後日本のどこかで原発事故が発生しても、チェルノブイリでの犯罪がその地の犯罪として反復されること。
同様に、今後、世界のどこかで原発事故が発生しても、チェルノブイリでの犯罪がその地の犯罪として反復されること。
だから、チェルノブイリ級の事故が毎年起こっても人類は大丈夫だ、と。
福島原発事故を経験した私たち人類の未来は、原発事故の起源=チェルノブイリにある。
この悪夢のような愚かな間違いをくり返さないためにどうしたらよいだろうか。
そのためには、まず、原発事故の起源=チェルノブイリで、どんな犯罪が行われたかを知る必要がある。それは今、福島と東日本で実施されている犯罪のモデルである。そして、将来、原発事故が発生した地で実施される犯罪のモデルである。
このチェルノブイリの犯罪を知るための必読文献の1つが、この「世界社会フォーラム2016」参加のため、イタリアから来日した「真実はどこに?」の監督 ウラディーミル・チェルトコフ「チェルノブイリの犯罪」である。
この本を読むことを通して、人は、チェルノブイリの犯罪を、福島と東日本で絶対くり返さないという信念に到達できる。さらに、原発立地の日本各地と世界でもこれをくり返さないという信念に到達できると思う。それほどの力をこの本は秘めている。
(※)動画
「核と被ばくをなくす世界社会フォーラム2016」の分科会「エートスと国際原子力ロビー:無知の戦略~核惨事の線量基準・ロビー・共同管理~ 」
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