「週刊ビッグコミックスピリッツ」4月28日及び5月12日発売号の「美味しんぼ」の表現に対し、福島県が表明した抗議文『週刊ビッグコミックスピリッツ「美味しんぼ」に関する本県の対応について』に対し、本日、ふくしま集団疎開裁判の会は、以下の抗議を福島県に申し入れました。
抗議文
周知のとおり、人権のカタログにおいて最も重要な1つが表現の自由です。世界最初の人権宣言である米国のヴァージニア人権宣言もこう宣言しました「言論出版の自由は、自由の有力なとりでのひとつであって、それを制限するものは、専制的政府といわなくてはならない」(12条)。重要なことは、表現の自由を保障する意義があるのは、政治的、学問的権威に盲従する自由ないし賛成する自由のときではなく(そもそも制限されることがない)、こうした権威を批判する自由ないし反対する自由つまり少数者の意見のときです。表現の自由を保障する真髄とは、「権威の座にある人たちの気に食わない意見を発表する自由」を保障することにほかなりません。
去る4月28日と5月12日に発売された雑誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載の漫画「美味しんぼ」に福島県双葉町の前町長や福島大学の准教授が実名で登場し発言した内容をめぐって物議をかもしています。
およそ良識を備えた人なら、次の認識は共有できるものです。「被ばくによる人体への影響は、いまも科学的に十分解明されていないことが多くあり‥‥内部被曝によって起こる病気や症状のほとんどが、明らかに外部から被曝していない人にも発症するものだということです。それでいて、原因が被曝によるものだと特定する検査方法が確立されていませんから、病院に行ってもよほどのことがない限り、それが被曝によるものだと確定診断されることはありません」(1991年から5年半チェルノブイリに医療支援活動を行った菅谷昭松本市長「原発事故と甲状腺がん」52頁)
被ばくと健康被害の関係が科学的に十分解明されていないとは、或る健康被害が発生したとき、現時点の科学ではそれが被ばくの影響である(危険)とは断定できず、影響がない(安全)とも断定できないことを意味します、つまり危険の可能性を帯びた灰色だということです。それが今日の科学の到達点であり限界です。その結果、この「灰色の評価」をめぐって、限りなく黒(危険)に近い灰色から、限りなく白(安全)に近い灰色まで複数の見解が生じ得ることになります。
前述の「美味しんぼ」に紹介された双葉町の前町長や福島大学の准教授の見解も今日の科学の限界を踏まえて、自身の被ばく体験と同様の境遇に置かれた市民たちから得た情報から導かれる範囲で、自身の見解を述べたものであって、根拠のない噂=風評ではありません。事実、被ばくの鼻血と関係を明言する専門家(西尾正道北海道がんセンター名誉院長)もいれば、除染の効果が十分上がらないことがチェルノブイリで証明済みであることもつとに指摘されている専門家も存在します(菅谷昭松本市長「これから100年放射能と付き合うために」67頁以下)。
しかし、福島県は、この「灰色の評価」をめぐって、福島県の見解と異なるというだけで、これらの見解を根拠のない噂=風評と決めつけ、「本県への風評被害を助長するものとして断固容認できず」と非難しています(->こちら)。
それは前述した「権威の座にある人たちの気に食わない意見を発表する自由」を保障しないことにほかならず、表現の自由に対する重大な侵害です。
のみならず、双葉町の前町長や福島大学の准教授の見解は彼らの個人的な見解にとどまらず、世界で最も過酷な「福島の現実」と向き合おうとしている多くの人たちにとって注目し共感せずにおれない重要な見解です。福島県の非難は、こうした人々の声を上げる自由をも抑圧するものであり、民主主義社会の基盤である自由な発言と討論の広場を奪う結果になっているという由々しき事態を深く自覚すべきです。
福島第一原発事故の後、福島の人たちの間で、鼻血が多発したのは明白な事実です。そのことについては多くの記録があります。そして、人々がその原因が放射能ではないかと考えたのも当然のことです。福島県が今回公表された見解は、今、福島で、放射能に対する不安を抱きながら生活している人たちが、自由な意見表明をすることを抑圧する結果を生じさせます。それは、福島の人たちを二重に苦しめるものです。「物言えば唇寒し」の社会を作ってはなりません。
以上より、私たちは、福島県のかかる侵害行為は断固容認できず、ここに厳重な抗議を表明すると共に、ただちに福島県の抗議を撤回することを求めるものです。
以 上
全く同感で、抗議文を出されたことに敬意を表します。
返信削除福島原発事故による放射線被曝の悪影響を矮小化したい中央政府や一部の地方政府が躍起になって、かかる言論弾圧を行う現実の誤りを、広範な市民に理解してもらうためには、彼らが拠所とするICRPや国連のIAEA、UNSCEARなどが如何に非科学的な勧告や報告書等を出しているかということを、併せて発信する必要があると思います。上記組織が利用しようとしない最近のチェルノブイリ事故や原発作業員、医療被曝などの症例を調査した複数の科学論文をみれば、低線量内部被曝によって生じる症状は、甲状腺がんだけではありません。全身にさまざまな病状が発症する可能性があり、かつ低線量下でも被曝量の増加に伴って死亡する人の割合が確実に高まることが明らかです。
この点で、去る5月12日に松崎道幸医師(北海道深川市立病院内科部長)が日本記者クラブで紹介されたテキスト「政府は,大きな誤りに基づいた『汚染地帯』への「帰還施策」をやめ、>>最新の科学的知見に基づいた対策を実行して住民の健康を護るべきである」(市民と科学者の内部被曝問題研究会沢田昭二理事長記者会見)が参考になると思います。
記者会見の様子は、ユープランの三輪祐児さんがyoutubeで配信して下さっておりますし(http://www.youtube.com/watch?v=1XuUmdLh5Fs)、松崎医師のご厚意により、同氏にメール(matsuzak@maple.ocn.ne.jp)すればpdfファイルをお送り頂けます。
最近の科学的データに基づく低線量内部被曝の悪影響を、「低線量内部被曝の真実」として、広く人々に訴えましょう。