その全文は以下の通りです。
「福島の子どもたちの被ばくによる健康被害の現状」を正しく認識するためには、3.11以来、福島県における被ばく対策の最高責任者の1人である山下俊一氏を証人調べすることが不可欠であるという考えに基づくものです。
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審理手続きに対する申し入れ(口頭弁論による証人調べの実施
2012年9月28日
2012年9月28日
仙台高等裁判所民事2部 御 中
抗告人ら代理人
弁護士 神 山 美智子
同 光 前 幸 一‥‥
1 口頭弁論手続きによる放射線被害等に関する専門知識補充の必要性
(1)、抗告人らは、抗告審において、被ばくにより抗告人らの生命・身体・健康に対する具体的な危険性があることを、チェルノブイリ事故との適切な対比[1]の中でるる主張・立証してきた。これに対し、相手方郡山市は、具体的な問題について「不知」と答えるのみで、終始、一般的、抽象的な反論にとどまっている。このままでは両者の立証は十分噛み合わず、証拠を比較検討しても有益な結果(心証)は得られない。これに対し、原審裁判所が原審決定の中でいきなり取り上げたいわゆる100ミリシーベルト問題にせよ、また文科省の20ミリシーベルト基準にせよ、或いは自己責任による区域外通学という代替手段にせよ、これらの論点にいずれも明快な見解を下しているのが山下俊一福島県立医科大学副学長である[2](原審裁判所は、暗黙のうちに、山下俊一氏の見解に基づいて決定を下したのではないかと思えるほどである)。また、抗告審における最大の論点「福島県の子どもたちの甲状腺検査結果」の評価についても、明快な見解を下しているのはほかでもない上記検査の責任者である山下俊一氏である(甲104矢ヶ崎意見書(4)別紙1の記事参照)。
従って、原審決定の当否を判断する上で、我々抗告人らが提出した科学者・医師らの見解と山下俊一氏の見解を比較検討して吟味することが必要不可欠であり、かつ最適である。
(2)、のみならず、山下俊一氏はより直接的に、「抗告人らの生命・身体・健康に対する具体的な危険性」の問題に関与している。なぜなら、本年9月11日の第3回目の甲状腺検査結果に端的に現れている通り、現在、福島県の子どもたちの健康被害は極めて深刻な兆候を示している。その直接の原因はもちろん昨年3月11日からの福島第一原発事故にある。しかし、事故直後から最適の防御を実行していれば子どもを含む福島県の住民の健康被害はここまで深刻な事態に至らずに済んだ可能性が高い。では、この深刻な事態をもたらしたものは何か。それは、最適の防御とはほど遠い「安全神話」としか言いようのないズサン極まりない防御の結果によるものである。そのズサンな防御を指示した最高責任者の一人が、事故直後に福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーに就任した山下俊一氏である。つまり、今日の福島県の子どもたちの深刻な健康被害の現状を正しく理解するためには3.11以降の山下俊一氏の言動・見解を吟味することが必要不可欠である。
(3)、ところで、抗告人側科学者・医師らも、山下俊一氏が指摘する「放射能は『正しく恐れる』ことが大切」[3]「チェルノブイリの教訓を過去のものとすることなく、『転ばぬ先の杖』としての守りの科学の重要性を普段から認識する必要がある。」[4]点では全く異論がない。問題はその先にある。一方は「もともと放射線の被ばくはどんな微量でも体によくない。年100シーベルト以下だからといって安全な筈がない」と言い、他方は「年100シーベルト以下なら大丈夫」と言う。一方は「内部被ばくで低線量の放射線で切断されたDNAの修復作用によりがんが発生する」[5]と言い、他方は「放射線で切断されてもDNAには修復作用があるから直してしまう」[6]と言う。事故直後の安定ヨウ素剤の配布について、一方は「(配布しなかったのは)取り返しのつかない『行政の愚かな措置』」[7]と言い、他方は「小児甲状腺ブロックは不要」[8](甲147)と言う。福島県の子どもたちの甲状腺検査結果について、一方は「警告を発していると見るべき」[9]「甲状腺が望ましくない環境影響を受けているおそれを強く示す」[10]と言い、他方は「原発事故に伴う悪性の変化はみられない」[11]「しこりは良性と思われ、安心している」[12]と言う。
以上のとおり、山下俊一氏の見解は抗告人側科学者・医師らの見解と真逆(まぎゃく)である。この真っ向から矛盾対立する2つの見解の当否を吟味する必要がある。そのためには、両者の見解を裏付ける根拠・前提にさかのぼって明らかにし、これらについてその食いちがいの理由やその当否を問うべきである。そのためには抗告人らが従前主張していた参考人の審尋(民訴187条)方式では不十分であり、山下俊一氏と抗告人側科学者・医師らを口頭弁論期日において証人調べすることが必要不可欠であり、とりわけ両者の見解とその根拠の意味とちがいを明確にするために、両者の対質尋問を実施することが最良の方法と考える。
(4)、尤も、仮処分手続(抗告手続)において任意的口頭弁論を開き、さらに証人尋問を実施することは、仮処分の迅速性を妨げることが懸念されない訳ではない。しかし、本件は、低線量被ばくと健康被害の因果関係の有無を吟味するという事件の特殊性と、万が一判断を誤ったときの被害の重大性、不可逆性、さらに、原審決定後の、世界でも類例をみない重要な新知見の発見等を考慮すれば、専門家から貴重な意見を聴取するには審尋手続きでは不十分と言わざるを得ず、十分な時間と手続きに配慮した証人尋問が必要と言わざるを得ない(とりわけ尋問結果の調書化は絶対要件である)。
(5)、加えて、福島県の子どもの甲状腺検査結果の評価については、これまで国内ばかりか、外国の専門家からも警鐘を鳴らす意見が出され[13]、これらの情報に接した市民は混乱と戸惑いの中にある。その意味で、市民への正確な情報提供という見地からも、公開の法廷における専門家の冷静な意見陳述は極めて重要であり、これを可能とするのは、現状において司法の場しかない。
2 抗告人らの予定する証人と次回審尋期日での釈明陳述(民事保全法9条)
(1) 抗告人らは、少なくとも以下の4名の証人尋問、そのうち山下俊一氏と松崎道幸氏・矢ケ崎克馬氏については対質尋問が必要と考える。
①.松崎道幸氏(甲131松崎意見書の作成者で、福島県の子ども約8万人に対し実施された甲状腺検査の評価についての知見、及び昨年4月にウクライナ共和国から公表されたチェルノブイリ事故25年後の被害状況の報告書[14]〔甲148〕に関する知見の補充)
③.山下俊一氏(福島県の子ども約8万人に対し実施された甲状腺検査の責任者であり、同検査結果の知見、及び100ミリシーベルト問題等の知見の補充)
④.山内知也氏(甲103山内意見書の作成者と郡山市内の小学校のホットスポット問題(甲135)に対する助言者であり(抗告人準備書面(1)24頁以下)、原審決定後の郡山市の除染の状況とその効果に関する知見の補充)
(2)、次回期日(10月1日)は、松崎道幸氏及び矢ケ崎克馬氏も同席を希望しているので、両名から証人尋問の必要性に関する事実の釈明陳述を求める。
また、抗告人らの親権者も期日に出頭するので、原審決定後の郡山市の低線量被ばくによる被害の状況について釈明陳述を求める。
以 上
[1] チェルノブイリ事故の評価については、昨今、350の英語論文を元にしたIAEAの従来の公表記録の見直しが急速に進んでいる(甲148~152。NHKが本年9月16日と23日に放送した「チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告」第1~2回等)。抗告人らも松井意見書(甲72)において、ベラルーシ語、ウクライナ語、ロシア語を中心とした5000の論文に基づいた2009年のヤブロコフ・ネステレンコ報告に基づいて郡山市と対比している。
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