郡山市在住の武本泰さんは、これまでに、除染の実態、ホットスポットの実情など郡山市の被ばくの現実と対策の真相について、昨年5月に報告書――情報公開制度を通してみえてくる郡山の現状について――(甲137)、昨年9月に報告書(2)--除染は壮大なまやかし?--(甲155)を作成しました。
今回、その続きとして、最新の報告書(3)――放射性物質に囲まれて生活する郡山市の子どもたち――(甲206)を作成し、裁判所に提出しました。
日々の生活環境のすみずみにホットスポットが存在する、放射性物質に囲まれて生活している福島の子どもたちに対し、最も単純明快な解決策「子どもを被ばくから逃がす」=集団避難を回避するために取られた、或いはこれから取ろうと検討中の様々な対策、つまり除染、屋内遊び対策、県民健康管理調査、18歳以下の医療費の生涯無料、県産品の販売命令の法制化などがいかに「臭いものにふたを」式の本末転倒、矛盾と欺瞞に満ちたものであるかを余すところなく明らかにした、政府と福島県の対策の真相と問題点を集大成した書面です。
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――放射性物質に囲まれて生活する郡山市の子どもたち――
武本 泰
2013年1月17日
目 次
○ 第一 略歴
○ 第二 はじめに
○ 第三 外遊びが出来ない郡山市の子どもたち
○ 第四 本来の目的を見失った除染
○ 第五 矛盾だらけの子ども施策
○ 第六 知る権利を侵害した県民健康管理調査
○ 第七 終わりに
○ 第一 略歴
既に提出した私の報告書(甲137)に述べた通りです。
○ 第二 はじめに
あの忌まわしい東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「福島原発事故」と言う。)から、1年10か月が過ぎました。郡山市の空間線量は、事故直後からは大幅に低下したものの、今なお市街地では時間当たり0.4~0.5マイクロシーベルト(μSv)前後を推移しています。さらに、細かく測定すると、あらゆる生活空間、特に子どもたちの外遊びの場として大切な自然環境(森林、池の周囲、芝生など)で多くのホットスポットが確認出来ます。
このような低線量被ばくの中で生活し続けると、住民は、以前より下がっているから、あるいは1μSv/hを下回ったからなどと、何ら、科学的な裏付けがないまま、ここに住み続けることを正当化するようになります。それでも、人々は決して心の底から安心して住み続けているわけではありません(別紙資料①〔毎日新聞2012年10月12日〕)。
しかし、行政は県外への人口流出防止や県内への帰還促進対策、そして地元産業の風評被害対策を積極的に展開し、他方、低線量被ばくによる健康被害については、予防よりも治療を優先した施策を打ち出しています。そのため、県民の健康より、むしろ地方公共団体や地元産業の存続に重きを置いた政策方針となっています。
その上で、本報告書では、私の報告書(2)(甲155)を作成した昨年9月27日以降の、福島原発事故後の郡山市の子どもたちを取り巻く生活環境について、客観的資料に基づいて検証し、併せて市民目線での意見も述べさせていただきます。
○ 第三 外遊びが出来ない郡山市の子どもたち
1 郡山市内には大小400もの公園が散在します。福島原発事故前は、乳幼児連れで散歩する親の姿、友達と元気よく遊ぶ小中学生の姿を目にしたものです。しかし、事故後は無用な追加被ばくを避けたいためか、公園で戯れる子どもたちの姿は殆ど見かけなくなり、その一方で、マンションのエントランスホールに座り込んでゲームに興じる子どもたちの姿が日常化しています。閑散とした公園は、手入れすら行き届かず、その一角にはモニタリングポストや放射線量を記載した掲示板が設けられ、一部の公園では除染で生じた土砂がブルーシートで覆われて山積みとなっている奇異な光景が広がっています。
さらに、外遊びに慎重になる保護者が多いため、保育所、幼稚園そして福島空港にまで屋内遊び場を設けるケースもみられます。(別紙資料②〔福島民報2012年8月25日〕、③〔福島民報2012年10月27日〕)。
その代表例が、2011年12月23日に郡山市にオープンした「ペップキッズこおりやま」です。小学生や未就学児を対象とした東北最大級の屋内遊び場で、開館1周年時までの入場者数は35万人、1日当たりの入場者数は平日で1000人、週末で1500人にも上ります(郡山市の小学生と未就学児を併せた人口は約3万人)(別紙資料④〔福島民報2012年12月24日〕)。
2 しかし、このような生活環境は、外遊びによって得られる多様な動きの獲得を遅延させるばかりでなく、活発に体を動かして遊ぶ時間も減少させ、反対に、多様な動きが少ない遊びが増えることにつながります。
そのため、本来ならば幼児期に習得すべき様々な動きが十分に獲得出来ず、自分の体の操作が未熟な幼児が増加し、健康で安全な生活を送る上で支障を来す恐れがあります。
さらに、外遊びが減少することで、多くの友達や異年齢の友達と遊ぶ機会も少なくなり、協調性やコミュニケーション能力の発達にも負の影響を与えることが懸念されます(別紙資料⑤〔子どもの遊びの実態に関する研究:鶴山博之、橋詰和夫、中野綾 国際教養学部紀要4、2008年3月〕)。
そして、何よりも、子どもたちには太陽の光を浴びて、自然の中で遊ぶことが不可欠であることは述べるまでもありません。
3 十分な外遊びが出来ない生活環境の中で、市内私立幼稚園児約30人の体重の伸びを比較したところ、2009年から2010年にかけては平均2.4キロ増えたのに対し、2010年から2011年にかけては平均1キロしか増えていなかったとの報道がありました(NHK2011年11月7日)。
さらに、2012年の学校保健統計調査(文部科学省)でも、福島県の5~9歳、14歳、17歳で肥満傾向の子の割合が全国最多でした(別紙資料⑥〔毎日新聞2012年12月26日、⑦〔毎日新聞2012年12月26日〕)。
昨年からは、ジャングルジムに上れない子どもや運動会などで最後まで全力で走れない子どもが増えたなどと、体力の低下を指摘する声が教育現場からも聞こえ始めています。
また、2012年12月の「ペップキッズこおりやま1周年記念講演」でも、地元小児医療の専門家より、体力の低下が2011年より翌2012年が顕著であること、外遊びをしないことによる運動不足、肥満傾向なども指摘されています。
4 郡山市では、震災後まもない時期から、行政を始め小児医療、乳幼児教育、こころのケアそして心身の発育の専門家で構成される「郡山市震災後こどものこころのケアプロジェクト」を立ち上げました。震災に直面した子どもたちのサインを早期に捉え、適切なケアを行うことで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を予防することが目的でした。しかし、時間の経過とともに、低線量被ばくを懸念して外遊びを避ける傾向が顕著化し、身体の発育や体力の向上についての諸問題が浮かび上がってきました。
そのため、プロジェクトの活動も、これまでのメンタルヘルスケア事業から、子どもの遊びと運動に関する事業や、子どもの生活環境のケア事業へとシフトし、名称も「郡山市震災後こどものケアプロジェクト」へと変更しています(別紙資料⑧〔福島民報2012年8月14日〕)。
5 低線量被ばくによる健康被害には、直接的なものと間接的なものが挙げられます。前者には、小児甲状腺癌や白血病のように、被ばくそのものが原因となって発症する健康被害が挙げられます。他方、後者には、被ばくそのものが直接的な原因とはならないものの、低線量被ばく下での生活様式の変化に起因する健康被害などが挙げられます。すなわち、低線量被ばくを避けようとして外遊びの機会が減少して発症する様々な健康被害です。
他方で、国連の児童権利宣言や児童の権利に関する条約にもあるように、子どもは心身ともに健全に育つ権利を保障されるべきものです。
乳幼児期に、適切な外遊びができない生活環境こそが、正に、低線量被ばくによる間接的な健康被害そのもので、子どもたちの生涯に計り知れない影響を与えかねず、健全に育つ権利を侵害していることにほかなりません。
6 これまで、行政や有識者の中には、福島県中通り地方の空間放射線量では健康被害は生じない、そのため、それを過度に不安視するあまり生じるストレスが問題との指摘がありました。あまつさえ外遊びまで積極的に推奨する有識者も少なくありませんでした。
しかし、最新の学校保健統計調査を受けて、「運動は発育や学習への集中にとっても大切。外遊びは被ばく量が増えるので、時間を決めて集中して運動をする必要がある」とコメントする有識者も存在します(別紙資料⑦〔毎日新聞2012年12月26日〕)。このように、子どもたちの外遊びについての行政や有識者の対応を経時的にみてみますと、以前よりは外遊びが安全であるとの論調はトーンダウンしています。
「ペップキッズこおりやま」の創設者の一人でもあるNPO法人理事長で、小児科医の菊池信太郎氏は「屋内遊び場が使える機会は時間や移動などの点で限定的。原発事故前の気軽に外で遊べる運動環境とは比較にならない」とのべています(別紙資料⑦〔毎日新聞2012年12月26日〕)。それでも、政府は福島県中通りに大型の屋内運動場や屋内プールを数か所建設予定です(別紙資料⑨〔2013年1月5日〕)。
また、同氏は、遊びながら互いの理解を深め人材育成を図ることを目的とした「福島絆プロジェクト」で昨夏、郡山市の子どもたち28名を引率して沖縄県を訪問し、その際「発達に必要な大事な時間を失っている」と述べています(琉球新報2012年8月6日)。
7 これまで、行政は屋内遊び場を設け、屋内での運動を工夫し、そして屋外活動の制限を解除するなど、様々な方法で子どもたちの運動不足の解消に努めてきました。しかし、いずれの方法も姑息的な手法であり、決して抜本的な解決にはつながりません。子どもたちの健やかな成長・発育を最優先に考慮すれば、当然ながら低線量被ばくの生活環境下から早急に脱出させることであり、それこそが根本的な解決策でありましょう。
○ 第四 本来の目的を見失った除染
1 郡山市では、福島原発事故後1年8か月を過ぎた昨年11月中旬から、放射線レベルが高い地域から順次、一般住宅等の本格除染に着手しました(別紙資料(10)〔福島民報2012年10月19日〕)。この除染で、環境省は年間の追加被曝線量を1mSv以下(0.23mSv/h以下)に下げることを目標としています。
2 郡山市内で空間線量が高い地域、池の台地区でモデル除染(面的除染)が行われました。その結果、庭(地上1m)では0.94μSv/h→0.49μSv/h(低減率は41%)、屋根(1cm)では0.69μSv/h→0.51μSv/h(低減率26%)、室内(高さ1m)では0.33μSv/h→0.24μsv/h(低減率27%)であり、環境省が目指す0.23μSv/hには遠く及ばないのが現状です。そのため、現実問題として除染によって、目標まで空間線量を下げることができるかは定かではありません。しかし、市当局は、除染後の線量が十分に低下しない場合でも、再除染は行わないとの立場です。
3 除染によって生じた土砂類を一時的に保管する仮置き場の設置も遅れているため、一般住宅の除染で生じた汚染土砂については、自宅の敷地内で現場保管(仮埋設や地上保管)を求められています。郡山市は、これらの現場保管の方法で、いずれの場合でも遮蔽率は約98%と説明しています。しかし、仮置き場の設置が遅れている現状では、長期にわたって汚染土砂を自宅の敷地内で保管しなければならない事態も懸念され、その間の安全管理にも疑問を禁じ得ません。
また、除染で生じた草木などの可燃ごみについては、焼却することで放射性廃棄物の減量を図っています。しかし、これらについては、放射性物質汚染対処特措法で定める「指定廃棄物」である可能性を十分に否定しないまま、市内のごみ焼却施設(一般焼却場)で焼却処分しています。そのため、気化した放射性セシウムが大気中へ飛散していることが懸念されます。昨年10月、中通りの切干大根から高濃度の放射性セシウムが検出され、原因は空気中のちりやほこりの放射性セシウムであると報道されましたが(甲192・同193。KFB福島放送)、この懸念を一層強めるものです。
4 郡山市当局は、一般住宅等除染では、屋根、ベランダ・バルコニーを除染対象外としています(別紙資料(11)〔一般住宅等除染説明会配布資料3~4頁・8~9頁2012年10月24日〕)。その理由として、屋根については、池の台地区のモデル除染で吸引式高圧洗浄で効果が乏しかったためとしています。また、ベランダ・バルコニーを除染対象外とした理由については、所有者の日常の清掃で対応すべきとし、効果が高い表土除去を優先すると述べています。
この一般住宅等の本格除染に先立ち、市当局は対象地域の住民に対して説明会を開催しました(私も昨年10月24日に郡山市労働福祉会館で開催されました説明会に参加しました)。そこで、地域住民から屋根やベランダ・バルコニーを除染対象外としたことについて様々な意見が出されました。中でも、子育て世代の母親数名が、住宅の構造上、屋根やベランダ・バルコニーに隣接して子供部屋が位置する、実際に空間線量を測定するとベランダ・バルコニーが住宅の中で最も線量が高いことなどを理由に、それらの除染を要望しました。しかし、市当局は、上記の理由を繰り返すのみで、地域住民の要望には応じようとはしませんでした。参考までに、福島市は屋根やベランダ・バルコニーを除染対象としています。また、ウクライナでは、屋根を除染の対象として、除染の方法も吹き替えでした(甲152の2「低線量汚染地域からの報告―チェルノブイリ 26年後の健康被害」201頁)。
5 除染の本来の目的は放射線量を低減することで、無用な被ばくを避けることにあるはずです。しかし、効果的な除染技術が確立せず、試行錯誤の状態下でありながら、時間に追われるように除染が実施されています。また、除染で生じた汚染土砂についても、自宅の敷地内で保管させるなど、不十分な計画・安全管理であることが明らかです。そして、何よりも、住宅での子ども部屋に近接する屋根やベランダ・バルコニーを除染対象外とするなど、本来の除染の目的である放射線量の低減→被ばくの軽減を見失い、単に公共事業の一環として除染を行っていると思わざるを得ません。
○ 第五 矛盾だらけの子ども施策
1 「住民基本台帳人口移動報告(2011年結果)」や、郡山市の公式ホームページに掲載の「現住人口」によれば、郡山市の転出超過数(転出から転入を引いた数)は、2011年で7232人(転出16724人、転入9492人)、2012年で3157人(転出21013人、転入17856人)でした。特に2011年の転出超過数は郡山市が全国の市町村の中で最大で、次いでいわき市(6194人)と続き、福島市(4085人)も上位にランクされています。
また、2011年の県全体の転出超過数は31381人であり、年齢5歳階級別にみると、全ての年齢区分で転出超過となり、特に0~14歳は9040人、25~44歳は11142人で、実に全転出超過数の64%でした。従いまして、子育て世代の転出が顕著であることが明らかです。
2 福島県や郡山市は、県外への人口流出防止、県外避難者の県内への帰還促進を目的とした様々な施策を展開しています。これらを実施する上では、当然ながら低線量被ばくによる健康被害が生じないということが重要な前提条件となります。この前提条件をおざなりにした施策の計画・立案は、低線量被ばくを懸念する県民の心に寄り添うものではなく、さらに、安全・安心を過度に強調するあまり、施策間で齟齬がみられます。以下に、それら施策の内、代表的なものを例示し、問題点について述べることとします。
3 自主避難世帯への住宅の借り上げ制度の新規受付の打ち切りについて(別紙資料(12)〔福島民報2012年12月11日〕)
全国23県で実施されていた、避難区域以外の地域から県外に自主的に避難した世帯(自主避難世帯)への住宅の借り上げ制度の新規受付は、昨年12月28日で打ち切られました。同時に、県内自主避難世帯にも家賃を補助する民間賃貸住宅借り上げ制度を適応することとしました。これまでの家賃補助は、災害救助法に基づいて行われており、今後は原発事故子ども・被災者支援法で何等かの予算措置がされる予定です。
しかし、原発事故子ども・被災者支援法による予算措置は、これからの国会審議に委ねられているため、県外自主避難を希望する世帯は災害救助法と原発事故子ども・被災者支援法との狭間に陥ったこととなります。そのため、これから自主避難を希望する親子にとって、避難先の選択肢が経済的な理由により県内に限定されることとなりました。しかし、憲法は市民の居住移転の自由を保障しており(憲法22条1項)、自主避難者がどこに避難するかは本来、避難者の自由な決定に委ねられるべきものです。経済的な側面からこの自己決定権を損なうような施策は重大な人権侵害の恐れがあると思います。
4 小児医療体制の充実とその矛盾について(別紙資料(13)〔福島民報2012年10月19日〕)
原発子ども・被災者支援法は、昨年6月に施行され、現在、同法に基づいて様々な政策や予算措置がなされようとしています。そのような中で、本年1月7日の地元民放テレビの単独インタビューに応じた森まさこ少子化担当大臣は、福島原発事故当時18歳以下の子どもたちは生涯にわたり医療費を無償化する方向で検討したいと述べていました。
また、福島県は、次期県がん対策推進計画(2014年度から5年間)では、基本方針に「東日本大震災の影響に配慮したがん対策の実施」を盛り込み、その中に小児がんの医療体制強化・連携も推進するとしています。具体的には、小児がん対策として福島医大を中心に人材育成、県内各地の医療機関の連携を強化し、福島医大は国が全国10カ所程度に設ける「小児がん拠点病院」の指定を目指すとされています。
しかし、これら施策は、「低線量被ばくによる健康被害は考えられない」という政府や福島県の従来の説明との間に齟齬を生じています。
5 県産品の販売促進のための法制化について(別紙資料(14)〔福島民報2013年1月3日〕)
本年1月3日、森まさこ少子化担当相は、福島原発事故による風評被害を払拭(ふっしょく)するため、県産品の販売促進を目的とした法律の制定を検討する考えを示しました。具体的には、店頭に県産品を陳列した店舗の優遇などを想定し、法案の概要については「本県を特区に指定し、国は小売店に対して、その地域の産品を扱うように命令したり、店頭で販売した店舗を優遇することができるようにする」と説明しています。
しかし、福島原発事故により福島県の農産物等が放射能汚染の被害を受けたのは事実である以上、農作物の放射能汚染を克服することが本来の課題です(この克服のため、チェルノブイリでどのような苦闘を重ねてきたかは、NHK・ETV特集「チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告「第1回 ベラルーシの苦悩」(甲151)に余すところなく紹介されています」。しかし、農作物の放射能汚染の克服という課題に真正面から向かい合わず、県産品の強制的な販売に向かうのは、逆に、福島県の農産物等が依然安全と言えないことの雄弁な証となるでしょう。
のみならず、憲法で「営業の自由」が認められている小売店に対する命令に、どの程度強制力を持たせられるかが疑問であり、何よりも、消費者基本法にも明記された消費者の権利である「商品を選択できる権利(商品について、自主的かつ合理的な選択の機会の確保)」を県民から奪いかねないものであると考えています。
○ 第六 知る権利を侵害した県民健康管理調査
1 福島県では、東日本大震災や福島原発事故を受けて、全県民を対象とした「県民健康管理調査」が行われています。この調査は、基本調査と詳細調査に大別され、前者は、外部被ばく線量推計を主たる目的とし、後者には、甲状腺検査、健康診査、こころの健康度・生活習慣に関する調査、妊産婦に関する調査などが含まれます。基本調査(問診票)の回収率は、福島原発事故後1年10か月を過ぎた現時点でも約24%に留まっています。
2 「県民健康管理調査」の目的は「東日本大震災やその後の東京電力福島第一原子力発電所事故により、多くの県民が健康に不安を抱えている状況を踏まえ、長期にわたり県民のみなさまの健康を見守り、将来にわたる健康増進につなぐことを目的」と説明しています(福島県ホームページ)。ここからも明らかなように、健康被害が生じないとの前提に立脚し、「健康を見守り」などという表現こそが県民の不信を招く結果となっています。
さらに、福島原発事故では、住民の個人別初期被ばく線量が的確に把握されていないため、基本調査で外部被ばく線量の推計を試みています。従いまして、福島原発事故に起因する健康被害については、疫学調査の見地、すなわち集団における低線量被ばくによる健康被害の発生について解明しようとするものです。そのため、県民一人一人の命と健康について、すなわち個人の被ばくと健康被害発生について、その因果関係の解明は困難と考えています。
3 さて、「県民健康管理調査」検討委員会における、いわゆる秘密会の存在や、検討委員会議事録に関して不適切な情報公開が報じられました(別紙資料(15)〔毎日新聞2012年10月3日〕、(16)〔毎日新聞2012年10月9日〕、(17)〔毎日新聞2012年11月20日〕)。文字通り秘密裏に開催され、一部では議事録すら存在せず、あまつさえ出席者には口止めまでもなされたとされています。この秘密会について、福島県は内部調査の結果として「検討委員会の議論の促進を図るため、主に資料を委員に説明する場として設け、意見などをあらかじめ調整した事実はない」と説明しました。
また、当初、検討委員会の議事録は開示請求後に作成したと説明されていましたが、更なる開示で不都合な事実(内部被ばくや尿検査に関することなど)を削除して開示していたことも明らかになりました。これは、正に情報公開の根本理念を歪曲し、さまざまな疑念を招くものです。
検討委員会は、県民健康管理調査の結果について公開の席上で様々な立場の専門家が議論することに意味があります。しかし、私は、第6回以降のすべての検討委員会を傍聴しましたが、資料の丁寧な説明がなされた一方で、委員間の質疑応答は終始、低調でした。
4 検討委員会の運営のあり方、甲状腺検査の進め方などをつぶさに観察すると、彼らの行ったことは、正に県民の命の尊厳を軽視したことです。すなわち、事前に秘密裏に準備会を開催し委員の意見のすり合わせを行った疑念が抱かれるなど、準備会の存在を隠ぺいしたという問題もさることながら、県民の健康状態について真剣に討議しなかったところに本質的な問題が潜んでいます。このような行為は国民を欺くものであり、この調査そのものへの信頼感を著しく損なうものです。
すなわち、福島原発事故による放射線被ばくの結果、生じるかもしれない健康被害と正面から向かい合わなかった姿勢に、県民として非常に憂慮しています。
更に、福島原発事故により健康や命を脅かされている県民の「知る権利」を侵害したことにほかなりません。正に、「知る権利」の侵害は県民ひとりひとりの健康や命を危険にさらすことを証明していると考えています。
○ 第七 終わりに
郡山市の子どもたちは、放射性物質に囲まれて生活していると申し上げても過言ではありません。子どもたちの日々の生活環境のすみずみにホットスポットが存在しながらも、本格除染はその途に就いたばかりです。しかし、その本格除染は子ども部屋に隣接しやすい屋根やベランダ・バルコニーをその対象外とするなど、本末転倒そのものです。
そして、子どもたちの外遊びが不足し、心身の成長・発育に深刻な影響が懸念される中で、その代償として屋内遊び場等のさらなる建設が予定されています。正に、これこそ、依然外遊びが安全と言えない証でありましょう。
そして、福島原発事故時に18歳以下の子どもたちの生涯の医療費無償化の方針や、小児がん医療体制の強化なども併せて考慮すると、もはや政府や福島県は低線量被ばくによる健康被害をまちがいなく予見していると類推せざるを得ません。
そのような状況下にありながら、他方で、県外への自主避難者の家賃補助の新規受付打ち切りや、県内での県産品の販売促進の法制化検討などは、低線量被ばくによる健康被害回避に逆行するものです。あまつさえ、福島原発事故による健康被害を把握する上で大切な「県民健康管理調査」検討委員会で、県民の知る権利を侵害する行為はとうてい看過できるものではありません。正に、行政施策という目に見えない鉄条網で囲まれた「ふくしま収容所」と言わざるを得ません。
このように、放射性物質に囲まれ、外遊びも十分に出来ない生活環境で、健康被害が懸念される中で、県外への自主避難の家賃補助の新規受付は打切られ、その上で、地産地消を法制化することが予定されている状況下では、郡山市の子どもたちを一刻も早く「ふくしま収容所」から脱出させる必要があります。
今こそ、私たち大人は、子どもたちの健康と正面から向かい合い、彼らの将来に心を寄せ、その上で、真の意味での命の尊さについて見つめ直すときではないでしょうか。
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